はじめに
「あなたの口座が犯罪に使われている」
身に覚えがないからといって、落ち着いて聞き流せる言葉ではありません。どういうことなのか。何かの間違いではないのか。こちらが答えを探している間に、相手は次の指示を出してくる。
第1回で、私は警察を名乗る相手からお金を要求されれば疑う、と書きました。それでも、実際に公表された手口を読むと、相手が用意している演出の多さに気づかされます。電話の名乗りだけで終わらないのです。
実際に公表されているビデオ通話の手口
警察庁は2025年10月24日付のページで、警察官を名乗る男が、逮捕した詐欺グループから本人のキャッシュカードが見つかったと伝え、LINEのビデオ通話へ誘導した事例を紹介しています。画面では偽の警察手帳や本人の実名入りの逮捕状を示し、口外しないよう圧力をかけていました。警察庁のビデオ通話を使った実例
この事例で、顔の加工にAIが使われたかは資料から確認できません。制服や偽の書類による演出と、AIによる偽装は分けて考える必要があります。
ただ、電話を受けた側が、使われた技術まで調べるのは難しいでしょう。自分の名前が入った書類を見せられたら、そこに目を奪われるのも無理はありません。だから、見た目の精巧さだけを判断の基準にしたくないのです。
電話番号が一致しても安心しない
警察庁は2025年3月25日、実在する警察本部などの電話番号を着信画面に偽装表示する手口も公表しています。紹介された事例では、資金洗浄への関与を疑われていると告げられ、口座の調査を理由に送金を求められていました。警察庁の電話番号偽装に関する注意喚起
「番号も本物だったのに」と思うような手口です。着信画面の番号が一致していても、それだけでは相手を確かめたことになりません。
確認したくなったら、いったん通話を切ります。そこで相手から「それなら、この番号へ」と案内されても、その番号にはかけないでください。確認先まで同じ相手に任せてしまうと、やり取りの外へ出られません。
切り出す言葉に迷ったら、「この電話では手続きしません。確認してから連絡します」で十分です。理由を長く説明する必要も、相手の納得を待つ必要もありません。
姿よりも要求内容で止まる
警察庁のニセ警察詐欺の注意喚起では、電話による取調べは行わないと説明されています。また、口座の調査や資産の保護を理由に、お金を振り込ませる手口が示されています。警察庁のニセ警察詐欺対策
「警察から電話が来ることは一切ない」と広く覚えるより、このような具体的な要求を知っておきたいところです。犯罪への関与を持ち出して送金を迫る、SNSで身分証らしい画像を見せる、誰にも相談するなと求める。その時点で、一人で応じ続けないでください。
「本物だったら、切ると怒られるのでは」。そんな不安があっても、確認のために通話を終えて構いません。相手を問い詰めたり、その場で偽物だと証明したりする必要はありません。自分で調べた窓口に相談し、落ち着いて確かめられる状態に戻ることを優先してください。
確認は会話の外で行う
不審に思ったら、まず通話を切ってください。そのうえで、次の順番で行動します。
- 相手の指示による送金、現金の引き渡し、身分証画像の送信を止める。
- 相手から渡された番号やリンクを使わず、#9110や、自分で公式サイトから確認した警察署の番号へ連絡する。
- 分かる範囲で、相手の名乗り、言われた内容、日時、送金の有無を伝える。
警察庁も、電話を切って#9110へ相談し、相手が教えた番号に折り返さないよう案内しています。メモを完璧に仕上げるために相談を遅らせる必要はありません。警察庁の相談案内
相談の伝え方は、例えば「警察を名乗る人から、口座の調査のために送金するよう言われました。まだ払っていません」。そこからで構いません。相手の名前や部署を思い出せなくても、相談できます。
家に来ると脅されているなど、差し迫った事件の危険があれば110番へ。すでに振り込んだ場合は、警察と振込先の金融機関に速やかに連絡してください。詳しい初動は第5回でも扱います。警察庁の緊急通報案内、金融庁の被害者向け案内
#9110と、普段相談できる人の連絡先を、手元に残しておいてください。家族からこんな電話の話を聞いたときも、最初の一言は「一緒に確認しよう」でありたいと思います。怖い思いをした人に、さらに言い出しづらい思いをさせたくありません。
次回は、SNSの偽広告を扱います。怖がらせる連絡だけでなく、欲しかった商品や魅力的な投資話にも、確認する習慣が必要です。




